
重症心身障害者のてんかんについて
てんかん発作と判断するためには脳波検査が必要
重症心身障害者のてんかんの合併率は60-70%と言われており、その特徴として複数の発作の型を持つ難治性てんかんの方が多いです。同様に筋緊張が亢進しやすい方も多く、外からの刺激で誘発された筋緊張をてんかん発作と間違えることがよくあります。筋緊張はてんかん発作ではないので抗てんかん薬の効果は乏しいです。てんかん発作か筋緊張や他の紛らわしい動きなのかを区別することは重要なので、判断が難しい動きに対して発作中に脳波検査を行うことで区別することができます。てんかん発作と診断できれば、抗てんかん薬の開始という治療の方針が決まります。
重症心身障害児に伴うてんかんについて教えて下さい。日本小児神経学会広報交流委員会QA部会
重症心身障害者のてんかん発作とまぎらわしい突発的症状との臨床的な鑑別
突発的症状 | 誤られる発作型 | てんかん発作との鑑別点 |
手もみなどの情動運動、癖 | 間代、発作後自動症 | 意識があり、開眼し、周囲からの刺激(声掛け、触る、見せる)に反応して動きが変化、止む。 |
夜驚、REM睡眠関連行動異常症(暴れる、動き回る) | 運動亢進 | 睡眠中のみ、睡眠薬などで熟睡すれば起こりにくい。入眠後、比較的決まった時間に起きる。脳波の発作波の有無、部位や形からは説明できない。 |
動作を止め、ボーッとしている | 焦点性意識減損、非定型欠神 | 対物瞬目(目の前に指を突き出すと目をつむる)があれば意識はあり、発作ではない。 |
興奮、パニック、過呼吸 | 強直、強直間代、運動亢進 | 覚醒時で周囲の刺激に反応することが多く、動きが一定でない。発声を伴うことが多い。 |
睡眠時ミオクローヌス、睡眠時ぴくつき | ミオクロニー、間代 | 睡眠時ミオクローヌスは数回で長く続かない。反復する場合は判別しにくい。入眠時に多い。脳波の発作波の有無、部位や形からは説明できない。 |
失神、起立性調節障害(急に倒れる、顔面蒼白、チアノーゼ) | 脱力、自律神経、(強直) | 急な起立や体位変換時に起こる(特に頭部の位置の変換)。血圧が低い、心電図異常などがある。失神が長引くと脳が低酸素状態となり強直となる時もある。 |
不随意運動(ミオクロニー、振戦、ジストニア、チック) | ミオクロニー、間代、強直 | 意識があり、睡眠時ミオクローヌス以外は覚醒時のみで眠ると消える。 |
反復する頭打ち(叩頭) | 強直間代、スパズム、脱力 | 手で押さえて止めたり、ぶつける先を柔らかい物で覆ったりすると止まる。 |
睡眠時無呼吸 | 強直、無呼吸 | 睡眠中のみで脳波の発作波の有無、部位や形からは説明できない。他の痙攣発作症状が無い。 |
息こらえ | 強直、焦点性意識減損、無呼吸 | 意識があり外からの刺激により変化する。脳波の発作波の有無、部位、形からは説明できない。 |
抗てんかん薬の選択
重症心身障害者のてんかんには複雑な背景(脳の構造異常、遺伝子異常や環境要因)が絡んでいることが多く、約30~40%は月1回以上の発作を示す難治性の経過をたどる症候性てんかんで通常の治療薬の組み合わせではうまくいかないことが多いです。発作の種類も複数あることが多いため、運動症状を示す発作が実害を伴いやすいことから、その発作の軽減を目的に治療を組み立てます。また脳波検査からは焦点性発作なのか、全般性発作なのかで選択する薬剤が異なります。よって、発作の仕方(スマホで撮影)と脳波検査の組み合わせが有用です。しかし、年月とともに主治医や病院の変更に伴って、情報がその都度欠けていくことが多いため、最終的に使用している複数の薬剤の中でどれが本当に有効であり、どれが不要であるか分からなくなってしまい、薬剤の適切な調整がされていないことが多いです。よってどの発作症状が本人とご家族のQOLを妨げているかを見極める必要があります。
発作起始の種類 | 症状 | 抗てんかん薬 |
焦点起始発作 | 大脳皮質の一部分が興奮が始まるため、四肢の片方から始まる、両眼がどちらかを向く。 | イーケプラ®️、ビムパット®️、ラミクタール®️、フィコンパ®️、トピナ®️ など |
全般起始発作 | 大脳皮質の全体が興奮するので、左右差は目立たない。 | デパケン®️、ラミクタール®️、イーケプラ®️、エピレオプチマル®️、ランドセン®️ など |
抗てんかん薬の副作用
抗てんかん薬には程度の差はありますが、いずれも眠気(または認知機能低下)、失調、筋緊張低下、分泌物増加などの副作用があります。眠気や認知機能低下はてんかん発作のコントロールが悪い時も起こりうるので、薬の副作用なのか、てんかんが悪化したのかを脳波で区別することが必要です。脳波でてんかんの悪化が無さそうと判断できれば、薬を減量することで副作用を減らすことができます。
認知機能/覚醒度 | 注意力 | 攻撃性 | 気分 | |
ラミクタール®️ | + | + | + | + |
イノベロン®️ | + | + | + | + |
ビムパット®️ | + | + | ||
イーケプラ®️ | + | + | − | − |
フィコンパ®️ | + | + | − | − |
トピナ®️ | − | − | − | − |
エクセグラン®️ | − | − | − | − |
出典:Cognitive and behavioral effects of new antiepileptic drugs in pediatric epilepsy. Brain Dev 2017;39:464.引用し改変
難治性てんかんに対する外科治療について
薬剤抵抗性の患者さんで2-3剤の抗てんかん薬による治療で発作が抑制できていない状態が2年以上持続している場合には、手術治療を検討することが勧められています(ILAE2016)。特に発達の停止や退行が心配される小児や2歳以下の乳幼児の場合は、発達の予後を考慮して手術が必要かどうかの早めの評価が推奨されています。乳幼児であればてんかん発作の焦点が言語野(話したり聞いたりする領域)や感覚運動野(感じたり動かしたりする領域)などに及ぶ場合でも、残った脳が代わりに働くようになるためにてんかんの原因となる脳の実質を切除することが可能です。例えば、言語野では6歳以前であれば、言語優位半球は切除後に反対側の大脳へ移行するようです。また運動野を含む領域を切除した場合でも、不全片麻痺にはなっても成人のような完全麻痺にはなりにくいようです。発症年齢が低いほど、罹病期間が短いほど、手術時年齢は低いほど術後の発達予後は良好となります。
出典:小児難治性てんかん治療の進歩 医学のあゆみ 2022;282:463.から引用し改変